約20坪(6間・3.5間)の小さな農家です。 構造材はほとんどが古材で、移築して建てられていました。 葺き替えていない瓦を見る限り、おそらく移築後100年は経過していると思います。 持ち主(70代)だった方に聞いたところ、いつ建てられたかは不明。南側の建具をサッシに変えた事の他は、子供のころから何も変わっていないとのこと。40年前に大屋根の瓦を無理をお願いして葺き替えたとのことで、雨漏りはありませんでした。 約20年使用されておらず、風呂・便所(汲み取り)は別棟。
敷地は、家の北側(北は上)には畑、東側には風呂・小屋・便所・はなれ、南側は庭、西側は道路。 特に北側と東側は、家よりも地盤が高くなっており、家の水はけは悪く、雨の後は家の周りが水たまり。 軒下には物が放置されたままで床下は風の通りが悪い。 基礎は小さな玉石、土台は腐食している部分が多く、ずれている束が数か所ある。 建具の建てつけが悪く、柱と土壁との間から光が洩れており、明らかに地盤の不同沈下により傾いている。 幸いにも、今まで災害に耐えてこられたのは、平屋20坪という規模だったからと思います。
初めてこの家に入った時、戸は締め切ってあり真っ暗で、懐かしいカビ臭い古い家の匂いがしました。 奥の部屋をよく見ると、各部屋に裸電球がぶら下がっており、座敷に上がろうと思いましたが、足の踏み場がありませんでした。 上を見ると、天井の明りとりからの光で、土間の吹き抜けの立派な小屋組みがうっすら見えました。
暇があれば掃除をして、やっと家の中のものをすべて出し、戸を開け放って、間取りを調べました。 まず残念だったことは、柱や梁そして土壁や建具には、べったりとペンキが塗られていたことです。 次に驚いたことは、上座敷の縁側と納戸の廊下は移築後に改装されていました。 その仕事の跡を見ると、明らかに職人の仕事ではなく、素人の仕事でした。 おそらくご主人自らで、柱を立て敷居と鴨居をつけて小壁をぬって障子を入れて、寒さをしのいだんだと思います。 他にも欄間を小壁に変えたり、水屋の隙間をはじめ家中の隙間に、糊で紙が貼られていました。 また、雨どいや生活排水・雨水の排水工事も、ほとんどの事はご主人自らで作業をされていました。
隣に住んでいる90歳のおじいちゃんにこの農家の事を聞いたところ、「わしが小さいころからボロかった」とのこと・・・。ただ、「このイモグラはものすごく評判が良かった」とイモグラ絶賛でした・・・。
将来的にこの農家を残す事、またはここで安全に暮らすことを考えると、費用はかかりますが基礎と屋根のやり直しは不可欠と思う。( 費用について:水野設計室の過去手がけてきた再生物件の平均費用は、基礎20万円/坪 屋根7万円/坪、今と同じ設備をいれると新築とほぼ同じ費用となります。仮に家が2階建てで広すぎる場合は、平屋に改装する事でずいぶん費用を抑えることができます。) しかし、昔の良質な木材、昔の職人の手仕事、そして何より代え難いこの数百年の時間を生きた家には、その価値が十分あると感じる。 今も手間をかけて造られた古い家が捨てられ、工業化・合理化・商品化された新しい家が次々と作られているが、果たして新しい家が間取りも含めて古い家よりも長く生き続け良いものであるのか、考えてしまう事がある。
「家のつくりようは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、耐えがたき事なり」
これは吉田兼好の徒然草の一節、日本での暮らしを実に上手く言い表した言葉だと思います。
この農家なら、水道もしくは井戸(と電気)があれば、薪炊き風呂に竈に囲炉裏を作って、十分季節と遊びながら暮らせるなぁと思いました。
とりあえず暑くなる前に、家の風通しを良くして、地盤の水はけを改善する方法を考えることにします。で、おじいちゃん絶賛のイモグラにいれるサツマイモをいっぱい作ります。
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